生徒会新聞AMBITIOUS

令和7年度

校長挨拶

『ツバメの子育て』


 私は農家生まれの農家育ち。幼少の頃、茅葺(かやぶき)屋根の大きな家に住んでいた。外側に面した部屋には長い廊下があり、天気の良い日は日向ぼっこや母親の裁縫の仕事場にもなった。玄関を入ると大きな土間があり、梅雨時、長雨が続いて戸外での作業ができないときには、荒縄を編んだり、摘みたての若いお茶葉を揉んで乾燥させ、日本茶を精製したりする作業場にもなる。

 

 昔の農家は無用心で玄関はいつも開けっ放し状態。4・5月から夏場にかけて越冬のために飛来したツバメの格好の住まいになる。農家の大きな茅葺屋根の軒先や玄関口の土間の壁は、何組かの夫婦になったばかりの越冬ツバメたちの安全安心な快適な場所。夫婦揃ってせっせと泥土や麦わらを運び込み、懸命な巣作りが始まり、頑丈な家が出来上がると、卵を産んで雛(ひな)が孵(かえ)るまで夫婦ツバメの共同作業。一方が巣の卵を抱え守り、一方が餌の虫や幼虫を取っては巣に運び込み、メスの食事の世話をする。まさに夫唱婦随、見事な連係プレイである。

 

 無事に雛が孵ると、夫婦ツバメはさらに忙しくなる。軒先の巣は、産まれたばかりの可愛い雛たちが、顔より大きな口を開けて御馳走のおねだり、育ち盛りの雛たちの食欲は日ごとに増すばかり・・・。 夫婦ツバメの子育て共同作業は、朝方から晩方、陽が落ちるまで絶え間なく続く。農家の人たちも、日が暮れるまで農作業が続き、疲れて家路につくと、到着した家の玄関先で、一日の疲れを一気に解き放すように、農作業の道具が入った背負いかごを下ろしながら、大きく息を吐き、背伸びをして一日の仕事が終わる。そんな住人の様子を知ってか、軒先の、土間の巣で静かに一日の疲れを癒しているツバメたちも、今日も一日お疲れさまとお互いの労を労うかのように住人と目を合わせ、ツバメたちの子育ての一日が終わり、静かに眠りにつく。そんなツバメたちの生活が、雛が成長して無事に大空を舞って飛び立つまで、ツバメ夫婦の闘いは続く。

 

 このツバメたちの一心な親子の信頼と愛情は、人間の子育てと何一つ変わりはしない。